『ショウほど素敵な商売はない』
 通い慣れた映画館が今日で閉館になる。だが、客席には拓弥と宇佐美しかいない。二人は映画館で観た数々の映画の想い出を語り始める。

 いや、ほんと参ってたんです。これ作ってる時は。4月のはじめに娘と台湾へ行ったのですが、日本ではまだそれほど騒がれていなかったのに、飛行機の中でスチュワーデスさんがみんなマスクしてたんですね。SARSですよ。現地の台湾の人は「まだ台湾には入ってきてませんよ」と言っていたのですが、日本に帰ってみたら、台湾で大変なことになっていると報道されているじゃないですか。どうなっているんだ? そんなふうに戦々恐々としているあいだに、みるみる死者の数は増えていくし。北京では『ハリーポッター』をやっていた映画館が閉鎖されてしまう。いろんな人から「そんなに過敏にならなくても」と言われたのですが、お客さんを集めて、その前でなにかしらの表現活動をすることを生業としている我々は「人が集まれなくなる」という状況が、なによりも恐いんです。SARSが流行る中、私はそれでも『メトロ』を見に行く、というお客さんがいらしたとしても、せっかく来てもらった劇場で感染しないとも限りません。今までのVol.は最後は「エンタメ」と呼ばれる楽しく明るい作品で終わっていたのですが、そういうものを作る心境ではなくなり、ついに、この時の心情そのままを、もろに出した作品となりました。でも、これは、この時のまぎれもない、我々の抱える問題と、それに対しての感情を凝縮した舞台なのです。